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2024-04-11

1 アメリカ小説の世紀

 1 アメリカ小説の世紀

 二十世紀は第一次世界大戦によって始まったわけではない。だが大戦はいやおうなく二十世紀をスタートさせた。


 アメリカの参戦は大戦の後半からだった。しかし参戦期間の短さと戦闘力を投入した地域の限定にもかかわらず、アメリカが負った戦争の傷は小さくない。全体戦争〈トータル・ウォー〉と大量死〈メガデス〉と。二重の災厄から逃れることはできなかった。

 大戦後の二十年代社会は、歴史のページのなかで、ひどく不安定で頼りない時期のようにみえる。このはざまに、アメリカ式大衆文化のいくつかの分野は開花した。ミステリも項目の一つだ。室内の殺人ゲームと都市が排出する犯罪。アメリカ独自のミステリが始まってきた。

 ジャンルの参加者たちの活動が影法師のように見えるとすれば、彼らの描く影絵には明瞭な図柄があった。


 一は、最初にふれたように「群集の発見」。
 ミステリは孤立者の物語だ。ゲーム的に語られようと、リアルに描かれようと相違はない。群集は物語の奥に潜りこんでいる。都市が代用物となる。

 ポーがヒントを与えた群集のなかの犯罪。犯罪が内実となることによって、群集の威嚇的な姿はふたたび作品の秘められた内部にもどっていく。

 二は、「ミステリの形式性の発見」。
 独自の発展史は、当初から書き手たちに強く意識されていた。ミステリを構成する要素は、長い時を経て整備され成熟を遂げる。パターンが使い尽くされたという意見が有力になってからも数十年が経過している。多くの文化領域に張り巡らされているモダンとポストモダンとの絡まりは、ミステリにおいても複雑な紋様を描いている。システムを完成させようとする力は反作用を呼ぶ。書き手が閉じられたシステムを明敏になればなるほど、テキストは以前書かれた作品の鏡となる。


 三は、「アメリカの発見」。
 アメリカの小説家であることは、他の社会で同じ仕事につくよりもはるかに困難だ。彼は文化的伝統の希薄な土地にあって書き、正体の定かでない大衆に向き合うことを強いられた。アメリカは、その手中にありながら、常に発見されねばならない一つ未知だった。この法則はミステリ専任の書き手にも部分的にあてはまった。

 ミステリの形式性に向き合うことと、独自のアメリカ文化の発見に立ち合うことは、区別されていなかった。


『アメリカを読むミステリ100冊』目次

イントロダクション 1 アメリカ小説の世紀  ――1920年代まで  1 偉大なアメリカ探偵の先駆け   ジャツク・フットレル『十三号独房の問題』1905   メルヴィル・D・ポースト『アンクル・アブナーの叡知』1918   シオドア・ドライサー『アメリカの悲劇』1925   ア...