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ラベル 6-6 未来からさかのぼってみれば の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
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2023-09-24

6-6 エリック・ガルシア『さらば、愛しき鉤爪』

 エリック・ガルシア『さらば、愛しき鉤爪』Anonymous Rex  1999
Eric Garcia(1973-)
酒井昭伸訳 ヴィレッジブックス 2001.11


 恐竜が人間型のボディスーツをまとって人間界に隠れ住んでいる世界の話。近未来か、多元宇宙か、妄想世界か。そんなことはどうでもいい。主人公で語り手は恐竜だ。

 パルプ雑誌マニアが妄想の願望が嵩じてタフガイになりきってしまったという話ならあったが、これはその上を行く。メタファーが物語に変じた。

 タフガイは時代遅れの恐竜めいた存在だという嘆きは、いつしかハードボイルドの基調となっていった。かつては、タフガイの美学こそある社会層の誇りであり、批判精神の拠り所でもあった。しかし変わらぬ感慨をいだいていても、もはや無様な繰り言になりかねない。そこで、いっそタフガイを真正の恐竜にしてしまったら――。


 そこで生まれたのが、人間の皮をかぶった恐竜の物語。絶え間なくまき散らすナルシズムのモノローグも、恐竜の口から発されるものなら、昔日の輝きをとりもどせる。

 すでに私立探偵という存在が定型ミステリの世界ですら滑稽なタイプに成り果てている時代。タフガイの蘇生には、こういう手もあったかと感心させられる。彼のものになる言葉も行動も、彼が真面目になればなるほど戯画的に映る。彼を恐竜と指定することによって、コミックの世界は、もういちど孤立したメッセージを語りえたのだ。

シリーズは、
『鉤爪プレイバック』 Casual Rex (2001)
『鉤爪の収穫』 Hot and Sweaty Rex (2004)
と続いた。

2023-09-23

6-6 ロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』

 ロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』Illegal Alien 1997

Robert J. Sawyer(1960-)
内田昌之訳 ハヤカワSF文庫 2002.10

 タイトルの意味は「不法入国者」だから、SFパッケージでなければ、国境警備隊の冒険アクションかと勘違いしそうだ。ソウヤーなかなか間口の広い才人だから、これはSFでありながら、「不法入国者」をめぐるシリアスなドラマとしても読めるつくりになっている。しかも、進行はリーガル・サスペンスと謎解きパズラーのフュージョンだ。


 異星人がやってくる。七人の小人数で害意は見られない。科学者のチームが中心となって友好的な関係を結ぶ。ところがその科学者の一人が残虐な死体となって発見される。片足を切断され、切り開かれた胴体からは臓器が取り出されていた。犯人は? 異星人の一人が被疑者として裁判にかけられるが、何しろ生命形態が異なるのだから、法廷の運用は困難をきわめる。

 感情や精神のありようからして地球人の尺度では測れない。彼らの原理で正当防衛とは何なのか。また、殺意をいだくとは具体的にどういう心の動きになるのか。仮に極刑になることを想定すると、どんな手段で死刑にできるのか。このあたりは、いかにもリーガルもののパロディとして笑える。

 半ばを過ぎて、容疑者のエイリアンが狙撃を受けて負傷するあたりから、謎解きのラインが明らかになる。彼らがプライバシーに属するという理由で隠してきた彼らの肉体構造の特殊さが解明される。それが謎解き小説の必須の手がかりとなる。異星人との遭遇のカルチャー・ショックに揺れるSF物語の枠組みが、そのまま本格ミステリのルールに利用されるのだ。

 これは、一回かぎりの設定とはいえ、楽しめる。ソウヤーには、ミステリ仕掛けのSFというより、SFの可能性を探るなかで本格謎解きを発見するといった作品がある。『ターミナル・エクスペリメント』95では、脳をスキャンしていくつもの「自己コピー」をつくったところ、そのだれかが殺人を犯すというシチュエーションが描かれる。自己像がますますヴァーチャル化する状況と「犯人捜し」の興味が、新しい形で合体するのだ。

 ここでまとめたSF系3作。下書きはあるが、調整のため削除した。

 ことのついでに復元しておく。

2023-09-22

6-6 未来からさかのぼってみれば テリー・ビッソン『バーチュオシティ』

 6-6 未来からさかのぼってみれば

 ここでまとめたSF系3作。下書きはあるが、調整のため削除した。

 ことのついでに復元しておく。



テリー・ビッソン『バーチュオシティ』Virtuosity 1995

Terry Bisson(1942-)

 映画ノベライゼーション 鎌田三平訳(徳間文庫)1996.5

 『バーチュオシティ』は、映画のノベライズだから、SF作家ビッソンの独自の世界を紹介するものではない。CGを多用したB級SF映画の設定のみをここで取り出すことになる。

 一九九九年の未来社会(製作時期から少しだけ先に置かれた)。治安組織は、人工知能テクノロジーを大幅に採用して、ヴァーチャル・リアリティ・シミュレーターによる


犯人追跡訓練を行なっていた。訓練の材料には、凶悪な合成デジタル・マシーンが使用される。中でも最高レベルのシド6・7には、百八十三人の凶悪殺人鬼の人格データを埋めこまれた。

 この最強の合成マシーンが現実世界に逃げ出して、悪事をほしいままにするというのがメイン・アイデア。主人公の捜査官にデンゼル・ワシントン、人間化したマシーンにラッセル・クロウという配役だった。デジタル・データがヒューマノイドの肉体を備えるという設定は呑みこみがたかったし、肉体化したマシーンがふたたびサイバースペ


ースに逃げこむというパターンもさらに不思議だった。コミックブック風だが、映画ならでは通用する話だろう。

 一大ブームとなった『マトリックス』の源流をつくった一作とみなせる。


『アメリカを読むミステリ100冊』目次

イントロダクション 1 アメリカ小説の世紀  ――1920年代まで  1 偉大なアメリカ探偵の先駆け   ジャツク・フットレル『十三号独房の問題』1905   メルヴィル・D・ポースト『アンクル・アブナーの叡知』1918   シオドア・ドライサー『アメリカの悲劇』1925   ア...