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2023-12-15

4 もう一つの黄金時代

 4 もう一つの黄金時代

 六〇年代と七〇年代を連結して、その時代の文化事象をくくるのは乱暴な試みだ。高度経済成長の頂点と、豊かな社会を背景にした政治=文化運動の高揚。それらは六〇年代末によって区切られる。七〇年代は明白な退潮の季節だった。ドルショック、第一次オイルショックという出来事が並ぶ。経済情勢のかげりに先行して、時代意識の保守化は確実に始まっていた。解放の空気に馴れ親しんだ者にとっては、あたかも五〇年代の閉塞状況をリメイクした悪夢のごとき時代の再来とも映った。

 「偉大な社会」に向かった六〇年代の神話はいまだに記憶に鮮明だ。公民権運動の高まり、反戦運動の爆発のみでなく、文化革命の広範なエピソードに飾られた時代。

 連続よりも断絶をみるのが一般的だ。

 断絶は時代の大統領の個性によっても語られやすい。片や、暗殺されることによってさらにヒーロー伝説を華やかに飾ったケネディ。片や、不名誉なスキャンダルによって任期なかばに退場させられたニクソン。個性や政治作法の差はあっても、後者はあまりに、末代にまでわたって不人気だ。その「不愉快な」個性は、いかにも七〇年代にふさわしい陰険さだという気がする。

 しかし本書は歴史認識を主要に述べるものではないので、あえて連続面のみにしたがっておく。

 作品をふりかえってみると複雑な感慨が浮かぶ。輝かしかったはずの収穫は急速に古びてしまって、過去という額縁に収納されたように思える。時代そのものが、六〇年代も七〇年代もあえて区別しなくてもかまわないほどに、遠景に退いた。

 現在に生々しく連結してくる作品はすでにごく少ない。二つの本質的には異なる年代の差異はほとんど感じられなくなっている。

 もう一つの黄金時代でありながら、この時期の作品は明瞭な時代の顔を欠いている。さりとて時間の風化をのりこえる古典としての質を持ちえている作品は少ない。中途半端な古めかしさに居心地悪くなる。リストの選定がいくらかミステリの枠をはみ出しているのは、その理由からだ。

 これは一つに、こちらの立つ場所が目まぐるしく前のめりに「前進また前進」と駆り立てられていることにもよる。

『アメリカを読むミステリ100冊』目次

イントロダクション 1 アメリカ小説の世紀  ――1920年代まで  1 偉大なアメリカ探偵の先駆け   ジャツク・フットレル『十三号独房の問題』1905   メルヴィル・D・ポースト『アンクル・アブナーの叡知』1918   シオドア・ドライサー『アメリカの悲劇』1925   ア...