大恐慌によってそのスタートを区切られる時代。戦争の終わりまでの十五年間が、ミステリの最も豊かな果実を産する日々となる。
世界は現在にも増して不均等だったが、経済恐慌は全世界に伝播した。第一次大戦の戦後処理の失敗が次の大戦を不可避にしたという歴史解釈は有力だ。一部の国では、急進右翼が政治的勝利をおさめ、ファシズム体制を強化していった。左翼勢力が全般に弱体化していく流れにあって、アメリカは例外だった。
革命的左翼はアメリカ社会を変えるほどの力を一度も持たなかったが、社会全体は左翼的行動に同伴していた。アメリカ民主主義の良質的な部分は伝統を形成していった。国際共産主義運動の致命的な誤謬の影響は免れなかったにしろ、赤い十年と呼ばれる歳月は、何の矛盾もなく対ファシズム戦争につながっていった。
ニューディール主義による経済復興は一つの神話だ。相対的な孤立主義を守り、アメリカは国内問題を最優先させた。広い国土、豊かな資源は、「海の向こうの戦争」を戦うためのスーパー・パワーを充分すぎるほどに保証していた。
文化の爛熟はそのささやかなエピソードの一つだ。