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2024-04-01

3 大戦後社会小説の諸相

 3 大戦後社会小説の諸相

 歴史家は「二度目は茶番だ」という警句を使いたがる。だが第二次世界大戦について、この言葉が適用された用例はないようだ。二度くりかえされた全体戦争〈トータル・ウォー〉について、気の利いた断言を加えうる者はいなかった。

 第一次大戦は二十世紀人の人間観を変えた。それは長い目でみれば、叡知を与えたともいえよう。三十年を経ずに起こった第二次大戦は、もはや叡知の源とするには大きすぎる惨禍だった。

 全体戦争〈トータル・ウォー〉は非戦闘員をまきこむ。対戦国を徹底的に破壊する。別の手段をもってする政治という範囲をはるかに超えている。全面的に勝利するか敗北するかだ。広島・長崎に投下された原子爆弾のように、戦争終結「後」のための戦術行使をためらわない。非戦闘員の死体数をも戦果としてアカウントするシステムだ。

 全体戦争〈トータル・ウォー〉は戦闘員の内面を荒廃させる。それに関わったすべての人間の意識を決定的に破壊する。

 こうした巨大な災禍にさいして人は容易に判断不能におちいる。それは、二十世紀後半の人類が立ち合った、平和と恒常的局地戦争がないまぜになった奇妙なモザイク状況だ。

 戦後アメリカ社会はリベラルな伝統を一掃する方向に向かった。国内的には、戦争の直接の被害を受けず、経済的繁栄の世界に連続していくことができた。工業力においても、資源においても、また軍事力においてもトップに立った。

 冷戦体制は新たな使命感と恐怖をもたらせた。赤狩りとは、共産主義国家の「全体主義」と闘うために動員された、アメリカ型全体主義の現われだった。非アメリカにたいする際限のない告発は、この社会に潜在していた非寛容を一気に解き放つことになる。

 アメリカ民主主義のマイナス面のみを肥大化させるうねりの始まりでもあった。


『アメリカを読むミステリ100冊』目次

イントロダクション 1 アメリカ小説の世紀  ――1920年代まで  1 偉大なアメリカ探偵の先駆け   ジャツク・フットレル『十三号独房の問題』1905   メルヴィル・D・ポースト『アンクル・アブナーの叡知』1918   シオドア・ドライサー『アメリカの悲劇』1925   ア...