パトリシア・コーンウェル『検屍官』 Postmortem 1990
Patricia Cornwell(1956-)
相原真理子訳 講談社文庫 1992.1
女性アマチュア探偵登場の、次は、何か。
コーンウェルのヒロインが登場した。州検屍局の責任ある役職を持った女性。私立探偵には望めなかった専門的な位置にいる。『検屍官』の翻訳が出たのが九二年。日本でも女性ミステリの勢いにいっそう火がついた時点だ。
警察小説が私立探偵小説にとって替わる、という時代の流れが女性ハードボイルドにも起こったということだ。ヒロインたちが三十代から四十歳をむかえるあたりにいることが共通している。コーンウェルの小説の初期には平均的なミステリ読者を戸惑わせるような素人っぽさがあったが、グラフトンが語る事件のような細部のアマチュア性はなかった。捜査側のディテールに関しては手堅く固められていた。どちらが上ということではないが、ミニマムな細部重視もまた時代の要請だったかもしれない。
女性検屍官シリーズは毎回、最新捜査技術、機器の紹介に熱心だ。捜査当局のPRめいたところすらある。ミステリの型としては、勧善懲悪タイプのサイコ・キラー警察小説になる。キラーは適度に印象的な悪役というレベルにとどまっている。
なお女探偵たちのリストをつづけることはいくらでも可能だ。きりがないから代表選手だけでやめておこう。ここにあげた三人の作家は長くシリーズを書きつづけている。シリーズ作の色調が変容するのは、いずれにしても避けられない。ヒロインのまわりの人物たちがそれぞれの役割で作品を豊かにしていくだろう。男性ハードボイルドが常連チームのファミリー・ストーリーの体裁を帯びていくのと同じだ。彼女たちも初期には思いもよらなかった自分自身の物語に立ち合っているようだ。そこからまた新しい試行錯誤が生まれてくるかもしれない。