ジェス・モウリー『ウェイ・パスト・クール』Way Past Cool 1992
Jess Mowry(1960-)
杉山次郎訳 講談社 1996.1
ロサンジェルス暴動の年に発表された『ウェイ・パスト・クール』は、黒人大衆の行き場のないメッセージを発信した。ゲットーの苦い青春をレポートする鮮烈な叫び。青春といっても、ここに登場するのは、ロウティーンからミドルティーンのストリート・キッズだ。二十歳まで生き延びることが僥倖のような日常。
ロス暴動に先立って、それを予兆するかのように、ブラック・ナショナリズム文化が花開いた。スタッフ、キャストともに黒人のつくり手によるブラック・シネマ。ブギ・ダウン・プロダクションやパブリック・エナミーなどのギャングスター・ラップ。それらは豊かなエコーとしてモウリーの小説にも鳴り響いている。アメリカ人口の十二パーセントを占めるアフリカ系アメリカ人。彼らの一部は中産階級化してい
ったが、依然として古典的な人種対立は払拭されていない。ポスト・レイシズム社会という議論はいまだに一般性を持ちえない。
『ウェイ・パスト・クール』は、西海岸オークランドの街頭で、骨肉の争いを繰り広げる少年ギャングたちの物語だ。彼らの年齢を気にするのでなければ、特別すぐれた犯罪小説とはいえないが、類をみない小説だ。黒人が黒人に銃を向け合うゲットーの日常は何によって救済されるか。これも都市の中枢のなかのアメリカなのだ。
ブラック・シネマの傑作としては、マリオ・ヴァン・ピーブルズ監督『ニュー・ジャック・シティ』1991、ジョン・シングルトン監督『ボーイズン・ザ・フッド』1991、スパイク・リー監督『ドゥ・ザ・ライト・シング』1989などがあげられる。他に、十二歳のドラッグ・ディーラーを描いた『フレッシュ』(サミュエル・L・ジャクスン助演)1994、四人の女銀行ギャングの物語『セット・イット・オフ』(ジェイダ・ピンケット・スミス、クィーン・ラティファ、ヴィヴィカ・A・フォックス、キンバリー・エリス主演)1996が記憶される。