エド・レイシー『褐色の肌』In Black and Whitey 1967
Ed Lacy(1911-68)
平井イサク訳 角川文庫 1969
レイシーは最も早く、そして意識的に黒人探偵を登場させた書き手だ。『ゆがめられた昨日』の主人公の名は、トゥーサーン・ルヴェルテュールとマーカス・ガーヴェイから取られている。
『褐色の肌』の舞台はニューヨークのゲットー。白人居住区と隣接する地域。そこで黒人少女が射殺される事件が起こった。KKKまがいの黒人差別集団が動き始める。
若い黒人刑事リーは相棒のユダヤ人アルとともに潜入捜査を命じられる。物語は彼の視点から語られていく。社会運動家を装って潜入した彼らの前に、ゲットーの現実がたちふさがる。この作品の背景にあるのは、六〇年
代後半に頻発した人種都市暴動だ。
とはいえ、物語そのものはドキュメンタリー・タッチで淡々と進んでいく。ラストに到るまで派手な事件は抑えられている。テーマにたいする作者の真摯な取り組みは疑いようがない。マルコムXやフランツ・ファノンに関する議論も出てくる。作者はさまざまなタイプの黒人を描き分けるべく努めている。主人公の潜入捜査官の内面は、恋人や相棒との葛藤で揺れ動く。警察小説というより、青い青春小説の苦さが強い。