エルモア・レナード『ラブラバ』 La BRAVA 1983
Elmore Leonard(1925-2013)
鷺村達也訳 早川書房 1985.7 ハヤカワミステリ文庫 1988.4
田口俊樹訳 早川書房HPB 2017.12
ブライアン・ディ・パーマはこれを背景に『暗黒街の顔役〈スカーフェイス〉』のリメイク映画を作った。二〇年代のシカゴ・ギャングの物語は、キューバ難民ファミリーのどぎつい暴力映画としてよみがえった。アル・カポネのキューバ版を演じたアル・パチーノは「おれは政治的亡命者だ」と印象深い啖呵をきった。『スカーフェイス』は、ハワード・ホークスとベン・ヘクトの監督脚本コンビに捧げられている。マイアミにおける人種人口比は八〇年代に逆転する。キューバ系を中心とするヒスパニックと黒人が絶対多数派となった。
『ラブラバ』は、ディ・パーマ映画の泥絵の具のような極彩色に彩られているわけではないが、かつてのハリウッド・フィルムへのオマージュに満ちあふれている点は共通している。アメリカの人種対立の現在に向き合いながら、ドラマの作りには徹底したノスタルジアが流れている。
小説は、元シークレット・サービス捜査官の写真屋ラブラバが往年のハリウッド女優と邂逅するところから始まる。スクリーンの中で憧れていたスターとの出会いはメルヘンのように語られる。彼は自分が麻薬で眠たげな目つきをしているロバート・ミッチャムの世界にいるような気がする。大人のメルヘンからトラブルが転がってきて、クライム・ストーリーが始まる。レナードの常套世界だ。郷愁をともにできる者にとっては快い。
マリエリットも登場してくるけれど、彼らは難民の影を背負っているというより、レナード印のちょっといかれた小悪党の変型だ。必ずしも人種のるつぼの最前線が生々しくレポートされるわけではない。レナードもトーマスに劣らず、会話をそれ自体として読ませる芸を持った書き手だ。ただの無意味なやりとりでも楽しませる。
作者にはウェスタン小説のキャリアがある。犯罪ものに転じてからもデトロイトを舞台にしていた。マイアミに移動してから独特のタッチが明瞭になった。
『バンディッツ』1987は作者にしては珍しく、ニカラグア内戦を背景にして、アメリカ政府の介入を非難する部分もある。