ピーター・ストラウブ『ココ』Koko 1988
Peter Straub(1943-2022)
山本光伸訳 角川ホラー文庫 1993
帰還兵たちの現在はおだやかなものではない。容易に二十年前の戦場の悪夢につながっていく。過去は過去ではなく、彼らは夢幻につづく戦場の奴隷のようだ。追跡者たちはココを捜し求めることが自分の中のココを捜す精神的な溯行であることに気づいていく。
さらには、或る人物がココは自分の創作したフィクションの人物だと主張しはじめ、物語はいっそう捩れていく。帰還兵の終わらない苦悩こそホラーの養分だということだ。単純な恐怖小説を納める箱を小説内につくってポストモダンホラーの語り口を導入するのは作者の得意とするところ。迷路を幾重にもはりめぐらせて、ヴェトナム後遺症小説の限定を突き破りたかったのだろう。
ストラウブはホラー・ファンタジー系の書き手。『ゴースト・ストーリー』1994、『ミスターX』1999などの作品がある。ミステリ寄りのテーマに近づいたのは本編だけだ。