ロバート・ハインライン『人形つかい』The Puppet Masters 1951
Robert Anson Heinlein(1907-88)
石川信夫訳 元々社1956.4
福島正実訳 早川書房世界SF全集1971.1、ハヤカワSF文庫1976.12 2005.12
そいつらは寄生虫なのだ。人間の背中に貼り着いて人間をコントロールする。人形つかい〈パペット・マスター〉だ。貼り着かれた人間は「人形」になる。魂も自分の意志も持たない人形、これもまた人間もどきの発展イメージだろう。ハインラインは侵略者と乗っ取られた者の姿をとりわけ醜悪に描くことによって、侵略テーマのイデオロギー的責務を明らかにしたといえる。
彼の反共十字軍的体質はスピレーン以上に強固なものだった。侵略者はより醜怪に、侵略者と闘うヒーローはよりヒロイックに。冷戦小説とは、ハインラインにとって、愛国者の自衛戦争を描く一大スペース・オペラでもあった。「二〇〇七年」、任務を持った秘密捜査官が地球を救うために立ち上がる。彼らの闘いは「自衛する民主主義」というアメリカの伝統にきっちり連なっている。冷戦期を彩るスペース・カーボーイの物語には、一片の矛盾もみられない。敵をロシア人とか、共産主義者とか特定するよりも、寄生虫のイメージで通すほうが、カーボーイの愛国心を鼓舞するのに都合が良かった。