ロアルド・ダール『あなたに似た人』Someone Like You 1953
Roald Dahl(1916-90)
田村隆一訳 早川書房HPB1957.10 ハヤカワミステリ文庫2000
田口俊樹訳 ハヤカワミステリ文庫 2013.5
なかでもエリンと双璧をつくるのは、ダールだ。ダールは、イギリス系アメリカ人で、本筋は童話作家だ。彼の短編も大人の童話を思わせるところがある。ダールの短編が時おり垣間見せる薄気味悪さは、「子供の時間」に属しているともいえる。
『あなたに似た人』には、「南から来た男」をはじめ、ギャンブル小説に独自の輝きがある。賭博は人間性のキャパシティを不快な力で押し拡げる。熱狂にとらわ
れた賭博者の姿を、単純に狂気とは指定できない。一度ダールのペンに捉えられた妄想は狂気を超越した次元に羽ばたいていく。
《いまでも私には、彼女の手がはっきり見える――その手は》……、という幕切れの鮮やかさ。この閃光のような戦慄は長く残るものだが、気がつくとそれほど不快なショックではないことがわかる。これがダールの童心だ。エリンと比べてみると、はるかに「安全」なのだ。
ダールとよく似た異色短編のもう一人の書き手に、ジェラルド・カーシュがいる。同じイギリス系、ダールは元飛行士だったが、カーシュは元レスラー、用心棒などと職歴も多彩だ。荒唐無稽なホラ話に相通じるところがある。カーシュには「壜の中の手記」1957などの作品がある。短編集は、日本独自で編まれたものが二冊(晶文社)ある。