ホレス・マッコイ『彼らは廃馬を撃つ』They Shoot Horses, Don't They? 1935
ホレス・マッコイ Horace McCoy(1897-1955)
常盤新平訳 角川文庫 1970.5、王国社 1988.9、白水社 2015.5
『彼らは廃馬を撃つ』は、比べてずっと感傷的なストーリーだ。
マラソン・ダンスという不況時代のハリウッドを映すコンテスト。賞金と観客のなかにいるプロデューサーにスカウトされることを目当てに、ひたすらパートナーとダンスをつづける競技だ。海岸に仮設された即製のダンス・ホール。そこで出会った男と女の苦い交感のドラマだ。
生きる希望を喪った女は、男に銃を渡し、最後の引き金を引いてくれと懇願する。男はそのとおりにしてやる。それが愛の証しなのだと自らを納得させながら。彼が引かれるのは、愛というより自己憐憫に近い感情だ。
この小説も、主人公を待ち受ける死刑の裁きによって閉じられる。教訓話の体裁はきちんとつけられているわけだが、これは作者の本意とは別のところにあるのだろう。
ケインやマッコイの影響がアルベール・カミユの『異邦人』につながったとする説は有力だ。どちらも、いかにも三〇年代小説の暗鬱な閉塞性にみちているが、別の観点においても救えるというわけだ。文学史におけるささやかなエピソードに、とくに反対する理由はない。もう一点、不条理小説のリストをつけ加えておこう。
『ひとりぼっちの青春』1969 シドニー・ポラック監督
ジェーン・フォンダ、マイケル・サラザン、ギグ・ヤング主演