ロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』Illegal Alien 1997
Robert J. Sawyer(1960-)
内田昌之訳 ハヤカワSF文庫 2002.10
タイトルの意味は「不法入国者」だから、SFパッケージでなければ、国境警備隊の冒険アクションかと勘違いしそうだ。ソウヤーなかなか間口の広い才人だから、これはSFでありながら、「不法入国者」をめぐるシリアスなドラマとしても読めるつくりになっている。しかも、進行はリーガル・サスペンスと謎解きパズラーのフュージョンだ。
異星人がやってくる。七人の小人数で害意は見られない。科学者のチームが中心となって友好的な関係を結ぶ。ところがその科学者の一人が残虐な死体となって発見される。片足を切断され、切り開かれた胴体からは臓器が取り出されていた。犯人は? 異星人の一人が被疑者として裁判にかけられるが、何しろ生命形態が異なるのだから、法廷の運用は困難をきわめる。
感情や精神のありようからして地球人の尺度では測れない。彼らの原理で正当防衛とは何なのか。また、殺意をいだくとは具体的にどういう心の動きになるのか。仮に極刑になることを想定すると、どんな手段で死刑にできるのか。このあたりは、いかにもリーガルもののパロディとして笑える。
半ばを過ぎて、容疑者のエイリアンが狙撃を受けて負傷するあたりから、謎解きのラインが明らかになる。彼らがプライバシーに属するという理由で隠してきた彼らの肉体構造の特殊さが解明される。それが謎解き小説の必須の手がかりとなる。異星人との遭遇のカルチャー・ショックに揺れるSF物語の枠組みが、そのまま本格ミステリのルールに利用されるのだ。
これは、一回かぎりの設定とはいえ、楽しめる。ソウヤーには、ミステリ仕掛けのSFというより、SFの可能性を探るなかで本格謎解きを発見するといった作品がある。『ターミナル・エクスペリメント』95では、脳をスキャンしていくつもの「自己コピー」をつくったところ、そのだれかが殺人を犯すというシチュエーションが描かれる。自己像がますますヴァーチャル化する状況と「犯人捜し」の興味が、新しい形で合体するのだ。
ここでまとめたSF系3作。下書きはあるが、調整のため削除した。
ことのついでに復元しておく。