マイクル・クライトン『プレイ 獲物』Prey 2002
マイケル・クライトン Michael Crichton(1942-2008)
『ジュラシック・パーク』1991、『ディスクロージャー』1993、『タイムライン』1999など映画化されるベストセラーを次つぎと放つ作者の話題作。今回のテーマはナノテクノロジーだ。まずは、作者の警告に耳をかたむけてみよう。
「科学技術の飛躍的発展と人間の無謀さは、二十一世紀に必ず衝突を起こすだろう。衝突は、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、コンピュータ・テクノロジーの三分野で起こる。共通点は、自己コピーする存在を環境中に解
き放ちうることだ。
すでにコンピュータ・ウイルスという形で人類は洗礼を受けている。
ナノテクノロジーは最新で最も取扱い注意の技術だ。極微小〈ナノ〉サイズの機械を造る。単位は、一〇〇ナノメートル=一〇〇〇万分の一メートル。ナノマシンは癌治療から新型兵器まで、広範な利用を見こまれている」
要するに、自らの力で生み出してしまった環境変成物を人間がどうやってコントロールできるのか、という問題だ。サイバースペースについて少しふれたように、これは難問である。
警鐘をきっちり読み物として送り出してくるのが、クライトンの偉いところだ。さて、パニック・ホラーとして『プレイ 獲物』は手堅い出来とはいえ、怖さの点で、作者の出世作『アンドロメダ病原体』69に数歩およばないようだ。作者も苦労して、ナノテク・マシーンが虫〈スウォーム〉のように群生するモンスターと化して人間を襲ってくるシーンをつくっている。そこがまあ、ホラーとしては平均点の迫力にとどまっている。警告を真摯に受け取れないのは遺憾なことだ。
これも映画化が決定しているが、ナノテクの「見えない恐怖」をいかに描くか。そこが難しい懸案だろう。
酒井昭伸訳 早川書房2002 ハヤカワミステリ文庫 2006.3