P・J・パリッシュ『死のように静かな冬』2001 Dead of Winter
P.J. Parrish
長島水際訳 ハヤカワミステリ文庫 2003.11
近年の警察小説には、地方主義の傾向が出てきたのかと思わせる一冊。舞台はアメリカ北東部のリゾートタウン。主人公は旅先の一時的な落ち着き先として田舎警察の職を得る。事件は連続する警官殺し。地方警察署長は独特の手法で小人数の警官を支配していたが、その体制が崩れはじめる。
『死のように静かな冬』のポイントは二つある。主人公を白黒の混血にしたこと、背景を八十年代においたことの二点。放浪者の個性を持つ主人公は、どちらかといえば輪郭のはっきりしない青年だ。事件の推移は彼を成長させるが、暴かれる人間模様にたいして彼は淡白なままだ。彼の日常を映す質感は、ひとむかし前の女性私立探偵ものを思わせる。さりげなく慎ましいノスタルジアと浮遊感。ゆったりとした自然主義などのものが、この警察小説に不思議な安らぎを与えている。
癒し系の暖かさはS・J・ローザンなどと通じる。