オットー・ペンズラー『愛の殺人』Murder for Love 1996
Otto Penzler(1942-)
田口俊樹他訳 ハヤカワミステリ文庫 1997.5
『愛の殺人』は、短編こそミステリの精髄だという信頼を新たにさせる。短編嗜好に応じた試みのうちでも異彩を放つ一冊。短編アンソロジーは数多いが、目利きの選択眼を売り物にした短編集がほとんどだ。編者が見識をもって書き手を選び、オリジナルの新作を書かせ、それが成功した例は珍しい。しかも内容のグレードが高い。
編者ペンズラーは、評論家・研究者として活躍する一方、ミステリ専門の出版社・書店を経営する。このアンソ
ロジーでは編集者としての手腕も示した。ほとんど短編を書いたことのないミステリ作家から、メインストリーム文学の書き手まで、編者の個性は際立っている。『シークレット・ヒストリー』1992一作のみで知られるドナ・タートの詩が並んでいるのも編者ならではだ。
集中では、マイケル・マローン「赤粘土の町」がベスト。
続編に『復讐の殺人』1998がある。