ローレンス・ブロック『殺し屋』Hit Man 1998
Lawrence Block(1938-)
田口俊樹訳 二見文庫 1998
ケラーという名のキラーの短編シリーズ。原タイトルは端的に「ヒットマン」だ。ニューヨーク派の書き手ブロックは短編の手練れとしても定評がある。飲まなくなった(元)アル中探偵のシリーズも書きつづけているが、ヒットマン連作がヒットした。短編十編をまとめて一冊にしてみると、いっそう引き立った。
ケラーは古典的な殺し屋だ。書物のなかでしか存在感がない。報酬と引き換えに殺しを請け負う専門家――大衆的な映画やミステリで数かぎりなく登場してきたので、人びとは殺し屋のことを隣人みたいに親しく思っているかもしれない。任務をまっとうするたびにケラーはディレンマにとらわれる。哲学的思索を好むのではなく、いわば行きがかりで悩むことになる。人口を減らす職業のはずが、人助
けする世話好きのヒューマニストを演じてしまったりする。彼の行動はいつも皮肉だが、彼自身は皮肉屋ではない。
書物のなかにも現実の世界にも、もっと大量にもっと残酷に殺す奴らがはびこり始めた。彼らはアマチュアにすぎないのに、アベレージでプロを上回る。彼の不満はそうした方面からも発してくる。書物のなかですら自分が何者であるかを充分にアピールできないからだ。これは誇りを持てるかどうかとは別のことだ。「殺し屋の話だって。だれが読むんだ、そんなもん」――彼なら憂鬱そうにつぶやくだろう。