ジェイムズ・エルロイ『キラー・オン・ザ・ロード』KIller on the road 1986
James Ellroy(1948-)
小林宏明訳 扶桑社ミステリー文庫 1998.8
エルロイはハリスほどに熱心には現実のキラーを取材していないだろう。まったく何も取材らしき労は取っていないかもしれない。
彼の場合は、キラーは彼自身の内に激情をもって棲息していた。エルロイは『内なる殺人者』を書いたトンプスンと同じく、現実のキラーになってもおかしくない資質の持ち主だ。暴力性と嗜虐性とは、一定のレベルを超えて作品に露出している。それは、「もし作品において燃焼されなかったとしたら……」と想像させるほど威嚇的だ。
作者はむしろ、投げやりともいえる無造作なタッチで書いている。物語の体裁は連続殺人鬼の告白記だ。「彼」は大まか五十人を殺したが、自分には何の罪もないと思っている。罪がないことを証明するために手記を書いている。
数あるサイコ・キラー小説のなかでも、犯人の一人称で一貫した作品は他にない。理由は明らかだろう。キラーの内面を微細に再現していくモノローグ。その記述に耐ええる書き手はそうそう現われ出ない。
多くのサイコ・ミステリが産出され消費された。そのほとんどはジョークのような流行便乗型のものであり、消えてなくなった。エルロイの殴り書きの一編は、流されないケースの一つだろう。