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2024-01-03

3-4 デイヴィッド・グーディス『深夜特捜隊』

 デイヴィッド・グーディス『深夜特捜隊』Night Squad 1961
David Goodis(1917-67)
井上一夫訳 創元推理文庫 1967.2、1999.1


 グーディスも、フランスでの評価の高さとはうらはらに、日本ではあまり重要視されることのない「有名作家」の一人だ。そのアンバランスは、原作を映画化した監督たちのリストを並べてみるだけで明らかだろう。フランソワ・トリュフォー、アンリ・ヴェルヌイユ、ジャン=ジャック・ベネックス、ルネ・クレマン、サミュエル・フラー。

 『深夜特捜隊』は、グーディスの最良の作品とはいえない。しかし合計三作しか日本語訳が出ていない作家にたいしては、こうした議論そのものが無意味だ。最良とみなせる作品があるのかどうかも見当をつけにくい。

 作家の像は伝説化されやすいから、映画化作品の目録と、作品外のエピソードに目を引かれる。精神病院で失意の生を終えたことなどは、わかりやすい材料となる。


 『深夜特捜隊』の主人公は、ケチな不正を見つかってクビになった元警官。彼はギャングのボスに拾われるが、同時に、深夜特捜隊なる組織からもリクルートの声がかかる。その他にも、前の妻につきまとう前科者が彼を狙って動きだす。暴力と裏切りのロンドの只中に放りこまれる男の唄をうたいあげる、テンポのいい活劇だ。

 とりわけこれが作者の本領を示す傑作とは断言できない。これこそノワールの真髄などといわれたら戸惑うだろう。似たような物語は、この時期にかぎっても、いくらでも見つけられるはずだ。どちらかといえば埋もれていく作品に属する。


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