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2024-04-10

1-2 アール・D・ビガーズ『チャーリー・チャンの活躍』


 アール・D・ビガーズ『チャーリー・チャンの活躍』Charlie Chan Carries On 1930
Earl Derr Biggers(1884-1933)
佐倉潤吾訳 創元推理文庫 1963.8


 ヴァン・ダインと同時代で、彼の作品ほど重要ではないが、やはり忘れられつつある存在に、チャーリー・チャンのシリーズがある。ビガーズの登場は、ヴァン・ダインより一年早い。

 探偵役はホノルル警察に所属する中国人警部だ。作者が奇をてらったのは、東洋人をミステリに登場させた点のみだろう。チャン探偵は人好きのする常識人であり、中国系ハワイ系アメリカ人という個性を与えられていなければ、それほど魅力を放たなかった。

 世界周遊旅行の観光船で連続殺人が起こる。先陣を切って殺されるのは、やはりアメリカ人の大富豪である。ニューヨークから発してロンドン、パリ、ニース、サン・レ


モ、インド、シンガポール、香港、横浜、ホノルル、サンフランシスコという旅程だ。船による世界一周という時代色が何とも懐かしい。豪華観光船クルーズという形式なら現代でもつづいているが、ミステリ・ツアーの趣向にはもはや物珍しさを感じないだろう。これは、二十年代ならでは旅情ミステリなのだ。

 チャン探偵のシリーズは映画化も人気を博した。オリジナルは六編しかないが、それから離れて四十本近くがつくられた。



主要翻訳リスト

『鍵のない家』1925 小山内徹訳 芸術社 1957、 林たみお訳 論創社 2014.8
『シナの鸚鵡』1926 三沢直訳 早川書房HPB 1954.9
『カーテンの彼方』1928 西田政治訳 早川書房HPB 1955.4
『チャーリー・チャンの追跡』 乾信一郎訳 創元推理文庫 1972.2


『黒い駱駝』
1929 林たみお訳 論創社 2013.6
『チャーリー・チャンの活躍』 1930 佐倉潤吾訳 創元推理文庫 1963.8
 『観光船殺人事件』 大江専一訳 春秋社 1935
 『観光団殺人事件』 長谷川修二訳 雄鶏社 1950
 『チャーリー・張の活躍』 長谷川修二訳 早川書房HPB 1955.9
『チャーリー・チャン最後の事件』  文月なな訳 2008.11

『別冊宝石45』 1955.2ーー『鍵のない家』The House without a Key
五十本の蝋燭』 Fifty Candles 『黒い駱駝』 The Black Camel(後の二本は抄訳)


『アメリカを読むミステリ100冊』目次

イントロダクション 1 アメリカ小説の世紀  ――1920年代まで  1 偉大なアメリカ探偵の先駆け   ジャツク・フットレル『十三号独房の問題』1905   メルヴィル・D・ポースト『アンクル・アブナーの叡知』1918   シオドア・ドライサー『アメリカの悲劇』1925   ア...