アラン・グリーン『くたばれ健康法!』What a Body! 1949
Alan Green(1906-75)
井上一夫訳 創元推理文庫 1961.7
『くたばれ健康法!』は、カー派の流れにある。初訳のタイトルが『健康法教祖の死』、それから『ボディを見てから驚け!』に変わり、現在のタイトルに落ち着いた。いずれも、もう一つ座りがよくないのは、トリックのせいか。
これまで見てきたように、不可能トリックものは、作品世界のリアリティ補強のために怪奇趣味や心霊現象やドタバタ喜劇などを前面に立てる傾向があった。グリーンの方針は明解だ。全編、これギャグ。
趣味は健康、仕事も健康、信仰も健康。不健康なほど健康を信じる風潮は、最近のことでなく、古くから一般的にあったようだ。犯人も被害者も容疑者も殺人の状況
も、すべて健康に関わっている。健康が殺人事件をつくり、その真相解明を阻んだのだ。
全米に五千万人の信者を持つ健康法の教祖が射殺された。フロリダ州のリゾート・ホテル。現場はもちろん密室だった。しかも奇怪な目撃証言によれば、銃弾はプールのなかから発射されたらしい。射撃の的にはふさわしい巨体の持ち主だった。容疑者、五千万人……。教祖殺しを知って笑い死にしそうになった者が無数にいる。
まさに健康第一主義があってこそ成立したギャグ殺人。いや、殺人的ギャグか。
タイトルも『健康法教祖の死』から
『ボディを見てから驚け!』に変わり、
『くたばれ健康法!』で、落ち着いた。