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2023-10-17

6-1 ジェフリー・ディーヴァー『ボーン・コレクター』

 ジェフリー・ディーヴァー『ボーン・コレクター』The Bone Collector 1997
Jeffery Deaver(1950-)
池田真紀子訳 文春文庫 1999

 『ボーン・コレクター』はサイコ型の警察小説としては、久しぶりの大ヒット作となった。

 成功の要因は、一に捜査官ヒーローの独創、二に敵役キラーのバランスのいい設定にある。それだけでなく、巧みなストーリー操縦術とあざといばかりのドンデン返しもプラスした。作者は意外性にこだわりすぎる傾向もあるが、この作品ではさほど気にならない。

 ヒーローの独創とは、その肉体にある。手足がまったく動かない。事故の後遺症で四肢麻痺者になった男。これが、元市警の科学捜査専門家にして、科学捜査法とFBIふうのプロファイリング技術を兼ね備えた名探偵だ。首から下で動かせるのは指一本だけ。文字通り頭脳のはたらきだけで存在する「思考機械」だ。頭脳を酷使しすぎたストレスで発作を起こすとき最も人間的になる。

 その手足となって働く助手役には、手堅く女性警官があてられている。

 対する殺人鬼も負けず劣らず、創意工夫のキャラクターだ。犯行現場には必ずメッセージと偽の手掛かりを残していく。ボーン・コレクターという異名は彼の誇りなのだ。

 寝台に寝た「思考機械」に指示されて女性警官が殺人現場を克明に捜査する場面は、物語の一つのハイライトだ。無線でつながっている彼らの会話。彼女は手錠で縛られた被害者の遺体を調べ報告せねばならない。彼は死体の手首を切断して、証拠品として持ち帰るように命令する。こうしたやりとりは『羊たちの沈黙』が描いた捜査コンビの巧妙な発展なのだが、作者は独自のものをつけ加えたといえる。

 最新の科学捜査の成果を取り入れる点でも、作者は貪欲なところをみせた。それは頭脳活動以外の面で決定的なハンデを背負ったヒーローの造型によって、いっそう鮮烈な印象を帯びることになった。シリーズは勢いをもって、『コフィン・ダンサー』2000(文藝春秋)など早くも五作を数えている。

『アメリカを読むミステリ100冊』目次

イントロダクション 1 アメリカ小説の世紀  ――1920年代まで  1 偉大なアメリカ探偵の先駆け   ジャツク・フットレル『十三号独房の問題』1905   メルヴィル・D・ポースト『アンクル・アブナーの叡知』1918   シオドア・ドライサー『アメリカの悲劇』1925   ア...