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2023-12-03

4-4 ジョー・ゴアズ『ハメット』

 ジョー・ゴアズ『ハメット』Hammett 1975
Joe Gores(1931-2011)
稲葉明雄訳 角川文庫1985.9 ハヤカワミステリ文庫2009.9



 もう一つの定型、チャンドラー派の趨勢はどう展開していったか。

 六〇年代を通じて、ロス・マクドナルドは私立探偵小説の正統を牽引しつづけたといえる。もう一人のマクドナルド、ジョン・Dは、トラヴィス・マッギーのシリーズで人気を博した。

 その後も、私立探偵タフガイの継承者には事欠かなかった。マーク・サドラー、マイケル・Z・リューイン、ジョゼフ・ハンセン、アーサー・ライアンズ、スティーヴン・グリーンリーフなどの書き手が出た。


 ゴアズは、探偵社所員を含むさまざまの職歴を経て作家になった。シリーズものもあるが、先人作家を主人公にすえた『ハメット』が代表作とみなされる。ハメットの伝記は三冊あるが、語られていない隠れたストーリーが存在する余地はあるだろう。ゴアズは、研究者としてではなく、探偵〈マンハンター〉の目でハメットを追ったと書いている。

 一九二八年、ハメットは専業作家として孤独な生活を送っていた。連載の終わった『赤い収穫』に手直しを加えていた。小説はその事実のなかに虚構を投げ入れる。サンフランシスコ、腐敗した卑しい街。元同僚に助力を乞われるが作家ハメットはそれを断る。旧友は殺され、彼は否応なしに事件に巻きこまれていく。タフガイを描いた作家が、タフガイを演じるために悪の街に歩み出していく。お決まりの話だが、歴史を再現するハードボイルド型都市小説としての先駆性も持った。



『アメリカを読むミステリ100冊』目次

イントロダクション 1 アメリカ小説の世紀  ――1920年代まで  1 偉大なアメリカ探偵の先駆け   ジャツク・フットレル『十三号独房の問題』1905   メルヴィル・D・ポースト『アンクル・アブナーの叡知』1918   シオドア・ドライサー『アメリカの悲劇』1925   ア...